普段はツアーを使わず、気ままな一人旅を愛する私である。
だが今回は珍しくバスツアーに参加した。
山道を延々と越え、たどり着いたのはピレネー山脈の小国・アンドラ公国。
入国時に広がるのは、ピレネー山脈の雄大な雪景色である。
アンドラには空港や旅客鉄道がなく、入国手段は車やバスなどの陸路(山道)に限られる。
このあたりから早くも電波が怪しい。山のせいだろうか。

そこから30分ほどで見えてきたのが、谷間に広がる首都アンドラ・ラ・ベリャ。
急峻な岩山に挟まれた谷底に沿って、近代的なビルや街並みが広がる。
標高約1,023mに位置し、「ヨーロッパで最も標高の高い場所にある首都」としても知られる場所だ。

アンドラ・ラ・ベリャに到着したのは15:00。
そして出発は16:00。
滞在時間はわずか60分である。
かつてバチカンやルクセンブルクも訪れたが、我が人生における「一国滞在の史上最短記録」をあっさり更新した。

あれ? 首都なのに圏外。
当然、ポケモンGOも圏外である。
スペインでもフランスでもポルトガルでも快適に繋がっていた電波が、ここアンドラに入った瞬間、完全に沈黙した。
山の中だからではない。アンドラ全体が「世界定額プラン」の対象外だったのだ。
見知らぬ異国の地で、スマホがただの板切れと化す恐怖。
迷子になったら16:00のバスに置いていかれ、ピレネーの山奥に取り残される未来しか見えない。
ビビり散らかした私は、集合場所から遠くへ離れることができなくなった。

中心部にあるショッピングモールのイルミネーション。
アンドラはタックス・ヘイブン(低課税・免税地域)として有名で、フランスやスペインからブランド品などを買いに大勢の観光客が訪れる。

賑わう目抜き通り・メリチェル通り。
緑色に光る十字架(画像では2024年の表記)は、ヨーロッパ共通の薬局(Farmàcia)のマークだ。
アンドラでは医薬品やコスメも免税で安く手に入るため、薬局巡りも定番のショッピングとなっている。
同じツアーの面々も、観光というより買い物を楽しんでいるようであった。
。
街の中心を流れるバリラ川(Valira)にかかる「パリ橋(Pont de París)」。
首都名が掲げられた噴水付きの人気フォトスポットである。
だが、私には優雅に景色を楽しむ余裕など微塵もない。
迷子になったら本当に終わるのだ。

サルバドール・ダリの有名なモチーフである“溶ける時計”を立体化した巨大ブロンズ像『Noblesse du temps(時の貴族)』。
街のシンボルであり、恐らくアンドラナンバーワンの観光名所。
ここに来て「アンドラは免税ショッピングの街であり、のんびり観光する場所では無い」と我に返る。

逃げ込むように立ち寄ったベーカリー「LA FLECA」のショーケース。
集合場所から目と鼻の先にある店である。

テイクアウトしたサーモンと野菜のクロワッサンサンド
(3.25ユーロ/日本円で約515円)。
美味しく平らげたところで、無情にもタイムアウトの16:00を迎えた。

これが私のアンドラ観光のすべてである。
電波に怯え、パンを一個かじり、時計におびえながらすごした60分。
アンドラを制覇したと言っていいのかは、甚だ疑問である。
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